例えば、千葉県鋸南町に位置する『道の駅保田小学校』は、地方と都市の交流を育む拠点として2015年12月に誕生した。農林水産物の販売、地域の食の提供のみならず、観光、移住、体験など多彩な情報も発信し、都市と農山漁村の交流活性化の拠点とした場所として生まれ変わっている。

2017年4月には、福岡県福岡市に『FUKUOKA growth next』が誕生。グローバル創業都市として勢いづく福岡に、新たなスタートアップのプラットフォームとして誕生した官民共働型スタートアップ支援施設だ。

それぞれの拠点ごとに施設の目的は異なるが、その土地にあわせた文脈の施設が登場してきている。

その流れの中で、2017年12月には鳥取県八頭町で旧隼小学校を活用した公民複合型施設『隼lab.』がオープンした。

1階をコミュニティスペースやカフェ、2,3階をコワーキングラウンジやテナントオフィスとしの機能を携えている。延床面積:3,358.31㎡(※既存体育館:1136.84㎡は既存利用)で、ツクルバは本プロジェクトの設計・監理を担当した。

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公民協働プロジェクト(枠組みのデザイン)

2016年秋、各地域でさまざまな廃校を活用した企画が実施される中、鳥取県八頭町においても廃校活用のプロジェクトが立ち上がった。

2017年3月に閉校が決まった隼小学校は、大自然に囲まれた場所に位置し、子供が伸び伸びと成長できるのどかな場所。

ちなみに、この地域には一部の人たちから注目を集める少し変わった観光スポットがある。地域住民の働きかけよって建物の存続を維持し重要文化財として指定されている隼駅だ。この駅は、SUZUKIの大型バイク『ハヤブサ』を乗りこなす隼ライダーに聖地と呼ばれている。シーズンになると隼駅を目的にツーリングのライダーが集結。夏には「隼駅まつり」も催される。

旧隼小学校の活用は当初から決まっていたものではなかった。

廃校が決定したものの、解体するにも多額の解体コストがかかり、校舎を残すにも運用コストはかかる。再活用するにも、運用のノウハウがなかった。

そこで、八頭町が掲げる総合戦略のひとつでもある『八頭イノベーション・バレー』の活動拠点として、旧隼小学校を活用することを考えた。

八頭町の新たなまちづくり事業を推進する事業会社として、運営会社である株式会社シーセブンハヤブサが設立。公民一体となり始動したこのプロジェクトでは、施設の改修に関わるコンバージョン費用を国の地方創生税を活用して八頭町が負担し、オープン後の運営については、運営会社が完全に民間で自走するプロジェクト体系である。

隼lab.は、運営を民間会社が請け負うことで一過性のもので終わるのではなく、地域の基盤(土壌)を作り上げ、持続できる事業を目指す。

『挑む、活かす、生み出す、続ける。』というスローガンを掲げ、地域の価値を最大化し、新たな産業や人材を生み出し、日本の未来のモデルになる田舎をつくることを目的としている。人材を育て、八頭町発の企業を増やすことや、新たなチャレンジを評価する町、地域課題に取り組むことで、新たな地域のあり方を提案していった。

co-ba HAYABUSA の参画について

運営会社の構想として、地方活性には働く人を増やすために魅力ある企業を増やすことと、地域課題の改善にも企業が必要と捉えていた経緯があり、コミュニティとビジネスの共存を重要視していた。 地方創生の新たな拠点となる公民複合型施設として生まれ変わる『隼lab.』を、新たなチャレンジを生み出す起業家や企業など、多種多様な人々が集まるコワーキングスペース・シェアオフィスとして計画。

そこで、ツクルバは全国展開しているコワーキングコミュニティ『co-ba』としてコワーキングスペースを作り、co-ba NETWORKの活用ができないかと考えた。co-ba NETWORKを活用することで、物理的な距離のある地方においてもさまざまな情報の共有が可能となる。働くスペースだけの共有では無く、お互いのアイディアやスキルを共有し、自分たちでプロジェクトを生み出していく場を目指すことができると考えた。

全国各地のさまざまなバックグラウンドを持ったオーナーとパートナーシップを組み、ローカライズされた多様な拠点を軸に会員同士を繋ぎ、新たなワーキングコミュニティを形成。そして隼lab.は、地域や企業、行政が一体となり地域課題の解決や新たな産業・雇用を創出する場となることを考えた。

設計で考えたこと

隼lab.をコワーキングスペース・シェアオフィスとして計画するにあたり、この施設が地域との繋がりの場となるようなプログラム配置を考えた。

そこで考えたのが、施設利用者の活動を促進させる『内部と外部をつなぐ場の創出』である。ビジネス(企業)とコミュニティ(地域)の共存が命題であるこの施設にとって、校舎が外部に向けて開放的であることが重要であると考え、既存校舎とグラウンドを繋ぐ新たな場を作れないか考えた。

主に建物内を利用する企業と、屋外のグラウンドを自由に利用する地域が交流できる場として、内外の動線を繋ぐ手段として、グラウンドと既存校舎の間に内部と外部をつなぐコミュニティテラスを増築した。イメージしたのは、小学校のグラウンドに置かれる朝礼台である。

グラウンドへ跳ね出した巨大な朝礼台が、コミュニティテラスとしての機能を担うことを目的としている。

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コミュニティテラスは、通常利用時は1階カフェや2階コワーキングラウンジの利用を外部テラスまで広げる。イベント利用時は、コミュニティテラスを主体とした活気を校舎内に巻き込む。 コミュニティテラスを中心に、内外一体で施設に賑わいをもたらすことを狙った。校舎の前面に広がったグラウンドは芝生化され、子ども達が走り回る活気を校舎に取り込むことも意識している。

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このテラスから、地域の人が施設の開放性を視認できることを目的として、施設のエントランスをグラウンド側(南側)からのアプローチとしている。小学校利用時からの既存エントランス(北側)は流用することで、テナント契約者や運営者との動線を分け、エントランスの混雑を避けるようにした。

また、隼lab.は事業の枠組みから形成された背景があり、『枠組みのデザイン』をデザインのひとつとして表現することも考えた。既存校舎のデザインを踏襲の意味も込めて、要所に『枠』を可視化した空間デザインを表現した。 たとえば、隼lab.の要とある2階コワーキングスペースでは、建具枠で新旧の対比を表現している。

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既存校舎で使われていた教室と廊下を隔てる建具は、既存枠を残しながらも対面に同様の新規枠を造作。対立する新規枠に既存建具を流用することで新旧の建具と枠が相対し、過去と未来が共存する場を作り上げた。

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また、前述の増築テラスにおいても、『枠』のデザインを意識している。

一般的に鉄骨造であればデッキスラブが利用されるが、鉄骨柱と梁の骨格を際立たせるために、2階テラスのスラブはコンクリート現しとし、『枠組みが支えるコミュニティテラス』として、事業の在り方を空間デザインに可視化させることを意図した。

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各フロアには、隼lab.のロゴから引用したアクセントカラーを配している。

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隼lab.のロゴを特徴づける、橙(1F)、黄緑(2F)、水色(3F)の3色を各フロアの基本色として、既存壁の見切り材や、新規タイル目地、階数サイン等で表現することで、隼lab.のロゴに込められた思いを施設のデザインに取り組むことも考えた。

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地方創生プロジェクトとして

ツクルバは設計という立場で参加したこのプロジェクトであるが、この規模をスタートから1年足らずでオープンまで迎えることが出来たのはかなり早かった。実現できた要因として、町が運営会社を信頼し、多種多様な決断を素早く対応できたことが、大きかったと感じている。

近年話題に上がることの多い地方創生プロジェクトだが、隼lab.は10年先の未来でも持続可能出来る土壌を作ることを目的としていることは大きな特徴ではないだろうか。

多額の税金を投じて一過性の盛り上がりでは地方活性には繋がらない。公民一体で取り組まれた地方創生プロジェクトではあるが、完全民営化で自主運営することは、持続可能な基盤を作る上で必要な選択肢なのかもしれない。

また、地方創生を持続可能なのものとするために不可欠なものとして、現地で活動を牽引する人材がいるかどうかもかなり大きい。この人材の有無によっては、プロジェクトの明暗が大きく分かれてしまう。

隼lab.においては、株式会社シーセブンハヤブサが運営〜活性化を一手に引き受け鋭意活動中であり、昨年12月に施設がオープンしてから半年足らずで、3社の起業を誕生させた(2018年4月時点)。これからの活動に大きな期待をせずにはいられない。

地方創生の話題がここまで溢れている中で、全国各所で抱える地方の問題は多様である。 これから地方が、どのようにして抱える課題を乗り越えるか。課題をチャンスと捉え、町の最適解を見出すことが出来る新たなモデルが誕生することは、全国の活性に繋がる可能性が秘められているのではないだろうか。地方にこそ新しい取り組みや事業が生まれるチャンスがあるのかもしれない。