グッドパッチが“UI/UX”を軸に据えるまで

中村:グッドパッチさんとは創業時期も近く当初から仲良くさせていただいていて、お互い調達したり、規模が100人を超えたりと近しい部分があるなと思っています。今日はその歴史を紐解きつつ、いまとこれからの話ができればと。土屋さんとはじめてお会いしたのは「co-ba shibuya」がオープンした頃ですよね。

土屋:まだグッドパッチがコワーキングをやろうとしていた時期ですね。

中村:あらためてになりますが、なぜ当時コワーキングをつくろうとしていたんでしょうか?

土屋:きっかけは起業前に訪れたアメリカのコワーキングスペースでした。現地にあったDogpatch Labsというコワーキングスペースを見て、自由度の高い空間で活発に議論が交わされる様に魅了されたんです。こういう場所を日本にも作りたいと強く思いました。当時は東京もコワーキングスペースが少なかったですよね。事業としてしっかり取り組んでいるのは、「co-ba」を含めて片手で数えられるかどうかという感じでした。

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中村:まさにコワーキング黎明期でしたよね。そこからUI/UXの領域にフォーカスしていったのは、どのような理由があったのでしょうか?

土屋:要因はいくつかあるのですが、一番は立ち上げ期にコワーキング事業とUI/UX事業を両立して進めるのは難しいと考えたからです。UI/UXもシリコンバレーで注目されていることを知り、国内展開を考えていたのですが、当時はまだUI/UX領域に注力しているプレーヤーは少なかった。UIデザインに対する意識や質を底上げしたいという想いも手伝い、そちらへフォーカスする決断をしました

はじめて体験する“バズ”と事業の拡大

中村:当時はまだまだ「UIデザイン」という言葉さえあまり知られていない頃でしたよね。

土屋:求人サイトにも「UIデザイナー」の募集はグッドパッチを除いて皆無でしたね(笑)。感度の高い層が「UIやUXってすごいのでは?」と関心を寄せているような段階。

中村:そのなかで、成長への転機となったのは、やはり「Gunosy」?

土屋:そうですね。GunosyのUIデザインを手がけたデザインファームとしてメディアに取り上げていただき、そこからUIデザインという概念や、グッドパッチ自体の知名度も上がっていきました。当時は面接に来るのも「GunosyのUIを見ました」という人がほとんど。Gunosyがネットで話題になったのが2012年の5月。1年後には20人近く社員が増えました。

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中村:このタイミングでオフィスも移転されましたよね。

土屋:秋葉原にあった10坪のオフィスから、少し広いところへ引っ越しました。すでに社員が集まると人があふれている状態だったので...。徐々にインターネットでUI/UXの話題を見かけることも増え、案件も増え、軌道に乗り始めたという実感がありました。

“驚かれた”資金調達と、自社事業への挑戦

中村:徐々に時流に合わせ成長していく中、次なる変化となったのは、資金調達でしょうか。

土屋:そうですね。2013年のことです。当時は、「デザイン会社が1億の調達した」と大いに驚かれました(笑)。当時はそんな例ほとんどありませんでしたから。

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中村:周囲の反応はそうだったんですね。その反応はツクルバが資金調達したときの反応とも似ているかもしれません。僕らは2015年でしたが、当時もデザイン会社が調達したと騒がれました。

土屋:同業者の方には「自由に舵を取れなくなるのでは」と相当心配されました(笑)。ただ、あのタイミングで資金調達できたことはグッドパッチにとって大きな変化でした。

何より効いたのは採用です。調達した資金を使い内装までこだわり抜いたオフィスを構えられました。「自分たちの場」ができると、人を呼び込むきっかけが増える。コストをかけずとも、同じ志を持った社員が集まってくれて、いい人材を集めることにかなり寄与してくれました。

中村:舵を取れなくなるどころか、志を共有する仲間が集まってきたんですね。

土屋:ありがたいことに調達時に周囲が心配していたような状況にはなりませんでしたね。ツクルバはどうでしたか?

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中村:僕らも調達した資金を元にカウカモの人材採用や開発やPR費用に充てられました。あのタイミングでアクセルを踏めたのは結果的にとてもよかったと思います。グッドパッチが自社事業を始めたのもこの頃ですか?

土屋:「Prott」(グッドパッチの開発するプロトタイピングツール)のローンチは2014年頃ですね。起業当初からずっと自社のプロダクトをやろうと思って、アイディアは長年練りつづけていました。なので「ここから始めた」というよりは、やっと出せたという感じでしたね。

海外拠点の設立と、山積みの組織課題

中村:UI/UXの会社として話題になって規模を拡大し、資金調達も果たして自社事業も...。まさに波に乗っている状態で、次はベルリン拠点も展開されています。この頃から一気にグローバルカンパニーとしての立ち位置を明確にされた印象を持っていました。

土屋: そうですね。元々、海外にも社員を抱える組織にしたいと思っていました。拠点の立ち上げを担当したボリス(現役員の實方ボリス氏)はパートタイムのスタッフから入社したのですが、面接時にも伝えており、それがついに現実になった形です。

中村:実際に拠点を構えてみていかがでした?拠点が増える上に、海外となるとマネジメントも分散するので大変そうにもみえます。

土屋:そうですね、正直、この頃はかなり大変な時期でした。海外展開もそうなのですが、国内の規模拡大の歪みが顕在化した時期だったんです。組織が50から100人規模へと拡大する中ミドルマネジメントが不足し、組織課題がいくつも顕在化してきました。コミュニケーションを取れず辞めていく社員が出てきたり、施策を打っても成果が出なかったり...。その対応に多くの時間を使ったため、ベルリンオフィスはボリスが一人で回しているような状況になってしまっていた。

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中村:いわゆる100人の壁ですね。組織が急拡大すると予期せぬ課題が次々と合われてきます。ツクルバも100人へ向かっていく過程で、かなり社内体制を整えていきました。

土屋:正直1、2年くらいは試行錯誤の連続でした。ただここで悩み続けたことで「起業家から経営者へ、意識を変えなければいけない」と気づけたのはよい変化でした。社員が100人になってからは、全員と1on1を実施して、なぜグッドパッチなのか、これから何をしていきたいのか、一人ずつ意見を聞いていきました。100人となると、正直かなりの時間がかかります。ただ実際やってみると、会社のなかに知らないことがこんなにあったのかと痛感させられました。

それを経た頃から少しずつ組織的にも経営的にも安定してきました。大型の案件も受注できるようになり、ベルリンの拠点もボリスが順調に拡大してくれていました。組織の拡大に伴う課題を一通り経験し、やっと少しずつ今後の方向性ややるべきことがクリアになってきたんです。

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ナレッジの共有が独自の価値を生む

中村:経営としても組織としても次のフェーズを考える体制ができたということですね。では、その次の姿はどのようなものなのでしょうか?

土屋:まずはグッドパッチの独自価値を積み上げ、発信していかなければと考えています。東京とベルリン、デザインパートナー事業と自社プロダクト、それぞれナレッジが溜まっているからこそ、活かせる仕組みを整える必要がある。そのために“ナレッジエクスチェンジ”を担当する社員を設定し、社内にあるあらゆる独自価値を環流させる動きをこの1年で進めてきました。

中村:ナレッジエクスチェンジ担当の人は具体的にどういうことをするんですか?

土屋:まずは、東京とベルリンのナレッジシェアリングに関してはロードマップを作成します。そのロードマップを元に、オンラインとオフラインに分け、開発やプロジェクト、デザインといった分野ごとに情報交換の場を設けたり、ナレッジや、技術的な情報のアーカイブを作っています。並行して、各地のメンバーをまとめながらグッドパッチのデザインプロセスをまとめる作業もおこなっていますね。

ブログに掲載している社員インタビューもそのひとつです。ベルリンで現地のメンバーの日本語インタビューを作成して日本で共有したり、その逆のパターンもあります。

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中村:これまで蓄積したナレッジを誰もが取り出せる形にまとめつつ、コンスタントに情報交換もされているんですね。

土屋:オフラインの試みでは、ちょうど先週までベルリンのUXデザイナーが来日し「今こんなプロセスで仕事をしています」とプレゼンをしてくれました。バケーション代わりにやってきて、その一部の時間を使ってオフィスで発表してくれています。いずれも、この1年で動き始めた仕組みですね。

この先は“コミュニティ”に向かう

中村:当初はコワーキングスペースの計画から始まり、今ではグッドパッチという組織自体がひとつのコワーキングスペースくらいの人数規模になってきています。実はその始まりも今の規模感も、ツクルバはかなりシンクロしています。いま土屋さんが目指す組織のあり方はどのようなものなのでしょうか?

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土屋:この先多くの会社は「コミュニティ」に近づいていくと思っています。組織のメンバーが全員正社員という働き方は、マクロでみると難しくなっていくからです。

最近では、正社員を退職して、フリーのデザイナーになる人も多いですよね。そうした人たちとも関係性を保ちながら、コミュニティとしていかに拡大していくかに注力することが必要だと考えています。そうしたフェーズに向けて、コミュニティにいる意味を作らなければいけない。その一つがナレッジのアーカイブであり、8月にリリースした「Goodpatch Anywhere」なんです。

中村:会社がコミュニティになっていく、というのはとても共感します。グッドパッチコミュニティにいれば、ナレッジにもアクセスでき、価値を享受できるということですね。

土屋:我々の目指すコミュニティ型組織のなかで、ナレッジがシェアされている点は間違いなくグッドパッチの独自価値になります。抱えているスキルやナレッジをシェアした分だけ自分たちのコミュニティが強くなり、結果的に個人にとってもプラスになる。

ようやくコミュニティとしての理想的なあり方や、そこに近づくための方法が掴めてきた。これからも壁にぶつかりつづけるとは思いますが、挑戦しつづけていきたいと思っています。

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グッドパッチは組織とヒトにまつわる課題と真摯に向き合い、自社事業やデザインパートナー事業、海外事業など、多角的な成長を遂げてきた。

そして今、土屋氏は正社員以外の多様な関わり方を許容する“コミュニティ”としてのグッドパッチを思い描く。そこではナレッジを軸にコミュニティが成長し、そのつながりが結果的に個人をエンパワーしていく。

UI/UXデザインの分野を切り拓いた彼らは、きっと組織づくりにおいても、次代のスタンダードとなるあり方を示してくれるはずだ。