山田 敏夫
ファクトリエ 代表
ライフスタイルアクセント株式会社 代表取締役
1982年熊本県生まれ。大学在学中、フランスへ留学しグッチ・パリ店で勤務。卒業後、ソフトバンク・ヒューマンキャピタル株式会社へ入社。2010年に東京ガールズコレクションの公式通販サイトを運営する株式会社ファッションウォーカー(現:株式会社ファッション・コ・ラボ)へ転職し、社長直轄の事業開発部にて、最先端のファッションビジネスを経験。2012年、ライフスタイルアクセント株式会社を設立。2014年中小企業基盤整備機構と日経BP社との連携事業「新ジャパンメイド企画」審査員に就任。2015年経済産業省「平成26年度製造基盤技術実態等調査事業(我が国繊維産地企業の商品開発・販路開拓の在り方に関する調査事業)」を受託。年間訪れるモノづくりの現場は100を超える。

『世界に誇る「Made in Japan」』という言葉を掲げ、国産の高品質な洋服を提供するファッションブランド「ファクトリエ」。EC主体の同ブランドは、日本各地の工場と提携し、流通にまつわる中間工程を省くことで高品質なアイテムを低価格でユーザーに届けるビジネスモデルを確立。高い技術で生み出されるアイテムは、国内外で着実にファンを獲得していっている。

日本の工場はその技術力の高さから、有名ブランドからも数多くの生産を請け負ってきた。たとえば、100年以上続く世界有数の某ブランドのジーンズは、岡山県内の工場で生産されている。

しかし、高い技術力を有する工場でさえも、アパレルの生産工程における構造的な問題により、これまで十分な利益を得てきたわけではなかった。加えて、後継者を見つけることができずに事業をたたむ工場も少なくない。

こうした業界の状況を変えようと、ファクトリエは立ち上がった。トークイベントは、代表取締役の山田敏夫氏が同社を立ち上げるに至った経緯からスタートした。

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山田:僕の実家は老舗の婦人服店でした。部活がない日は店番をしていたり、幼少期からファッションは身近なものでした。そのファッションを自分事として強く感じたのは、学生時代です。

当時パリに留学したんですが、渡航当日に財布を盗まれてしまって(笑)。 お金がないのでなんとか現地で仕事を見つけなければと色々な会社に相談し、採用してくれたのがGUCCIパリ店でのストック整理の仕事でした。

そこでショックを受けたのは、同僚に“何を着ているの?どこの国の製品?”と聞かれたことです。当時僕はそんなことを気にしたこともなく、タグをみたら中国製。日本出身なのに日本の製品を着ていないことにその時はじめて気づいたんです。その同僚から”日本には本物のブランドがない”と言われ、何も言い返せませんでした。そのときの悔しさが今に続いていると思います。

山田氏がパリに渡った2000年ごろ、日本のファッションブランドはマーケティングが先行したものが主流で、日本でのものづくりを大切にしたブランドは存在していなかった。

GUCCIという一流ブランドで働くなかで「誇りを持った職人の手によって生み出されるものが本物のブランドである」という考えに衝撃を受けた山田氏は、MADE IN JAPANのブランドをつくることを決意した。

MADE IN JAPANのファクトリーブランドができるまで

帰国後数社を経て、山田氏はマンションの一室から事業を立ち上げる。

職人たちにスポットライトをあてたブランドづくりには、工場がしっかりと利益を確保できる生産工程の構造改革が必要だった。そこで考えたのが中間業者を介さず、“工場”と“消費者”をダイレクトに結び付けるビジネスモデルだった。

山田:繊維業に限らず、ものづくりの国産比率は年々落ち込んでいます。アパレルでいうと3%以下しかありません。でも日本の工場は海外の高級ブランドから発注を受けるほど高品質なものづくりをしている。

ならば日本からでも一流のブランドをつくれるはずだと思ったんです。ですからファクトリエは工場直販で、工場の利益を増やすシステムを作り、工場の方々が主体となるブランドとしました。

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工場の利益を確保するために、商品の値段を工場側が申告する「言い値」での製造原価設定販売を選んだ。またお客様への販売価格はその約倍に設定。それでもこれまでの流通から比べたら、原価から考えると1/2〜1/3以下の値段になるという。

これを実現し適正価格で商品を提供するために、生産過程や流通、過剰な生産量、さらには販売方法を見直すとともに、宣伝などの販売促進費は極力カットした。

こうすることで、工場は自身が生み出す価値に対し適正な価格をつけられるとともに、ブランドに対しても責任感が生まれた。この工場に有利なシステムは、大手ブランドと並び、山田氏が工場と契約を結ぶための説得材料にもなった。

山田:契約を結ぶためには、直接工場へ連絡し、現地へ伺って直談判を繰り返しました。これまで全国600以上の工場を回り、現在は約55の工場とお取引をさせていただいています。もちろん伺う前に断られることもありました。ですが、中には今の状況に危機感を持ち、何かを変えたいと思っている工場もいる。そういった方々にファクトリエは支えられています。

工場の多くは後継者不足の問題にも頭を悩ませていた。山田氏は「自分たちのものづくりに誇りをもって働ける場所であれば、若い人も必ず興味をもってくれます」と、ブランドの必要性を説いて回った。いまでは毎年工場と共同で就職活動支援イベントを開催し、採用が決まった例も少なくない。

「自分たちの仕事を誇れるようになりましょう」

工場の説得に使ったこの言葉はファクトリエのブランディング、そして会社作りにも通底するキーワードになっていった。

「お客様」ではなく「熱狂的な仲間」

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イベントの後半はモデレーターを務めたツクルバの中村や、会場の方々からの質問に答えながら、対話が進められた。

中村:僕も実際に、このシャツを買って驚いたんですが、商品と一緒に山田さんからの手紙が届いたんですよね。商品の良さはもちろん、想いの強さも感じました。ファクトリエはリピートして購入されるファンが多いと伺いましたが、どのようにファンづくりをおこなっているのでしょうか?

山田:僕らは、ファクトリエの商品を購入される方を「お客様」ではなく「熱狂的な仲間」だと思っているんです。商品を販売していくことは、仲間集めでもある。ファクトリエの思想に共感して、何度もリピートして購入してくれるような関係を結んでいきたいんです。

そこでファクトリエがやるべきなのは、「またファクトリエで買おう」と思ってくれるような最高のものを作ることです。中途半端なものではブランドの思想は伝わらず、「仲間」のような関係にはなりません。

ひとりのお客様から継続的に購入いただけるブランドになることは、サステナブルな生産体制づくりにもつながります。リピート率が低いと、宣伝費をかけて新しいお客様を獲得したり、商品を安くしたりしないといけなくなってしまう。すると工場の取り分も少なくなってしまいます。圧倒的に品質へこだわり、それを正当な価格で売っていく。ここを変えてはダメなんです。

中村:こだわりをおろそかにすると、経済合理性を考えてもデメリットが生じると。

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山田:そうなんです。僕はファクトリエで洋服を購入される方が日本製の服に夢中になり、自分の服に愛着を持つことを自分の使命だと考えています。いわば「消耗」を「愛着」に変える、革命の戦いをしている。その同志を集めるために「最高の商品」があるんです。物を売りたいのではなく、思想を伝えていきたいんです。

その思想を伝えるために重要な役割を果たすのが「ブランド」です。心からよいと思えるものや、本当に好きなものは「誰かに伝えたい」と思う。購入された方が、どうしても語りたくなってしまうようなこだわりが必要です。

たとえば高級車であれば、車のドアを閉める音も含めてブランドなんです。ある人にとっては車の機能より、その音の方が心に響くかもしれない。ブランドは一面だけでいい顔をしても意味がない。360度、全体でこだわりを積み重ねたものが「ブランド」の正体なんだと思います。

中村:ブランドを作り上げるために、ファクトリエがお客様とコミュニケーションを取る上で気をつけていらっしゃることはありますか?

山田:お客様へ向くのではなく、こだわりの熱量を会社の内側に向けるようにしています。熱は伝播するものなんですよ。中心にある熱、つまり最も燃えている僕の火を絶やさず燃やし続けることが大事です。その熱が、近くにいる会社のメンバーにうつり、やがてお客様に届く。なので、僕は社員がどれだけ楽しくいられるかに注力しています。ブランディングとチームづくりはシームレスにつながっているものだと思いますね。

サービスを作り上げるのは、ひとりの熱狂

続けて、参加者から質問が上がった。ファクトリエが「チームの熱量やモチベーションをキープするためにどのようなことを行っているか」という問いだ。

山田:メンバーがわくわくするかどうかを仕事の判断基準にしています。「こういう体験してもらえたら最高だな」とスタッフが思えないことはやらない。なので、僕が「こうしてほしい」と思ったこともやらせないようにしています。

サービスを作り上げるのは、ひとりの熱狂なんです。発案者が一番燃えていて、自分自身の課題を解決するものになっているかかどうか。心からそのサービスを欲しているひとりのために新商品を企画する「Prototype for one」という考えが大切だと思っています。

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中村:それはツクルバの事業づくりにも近いところがありますね。例えば、カウカモもはじめは「自分の家の価値を正しく伝えられる売り方がない」というデザイナーの知人の言葉がきっかけでスタートしました。世の中には最大公約数を狙って規格化されたものが溢れていて、基本的には新しいことが価値だという傾向があります。でも、その基準から外れる価値もあるじゃないですか。

“この古びた感じが味なんです” “何LDKという規格では表現で来ないような素敵な間取りがいい”という人がいても、その価値観を認める仕組みがない。なので、それを物語として伝えることで「家というものの価値をしっかり伝える売り方ができないか?」と考え、スタートしたんです。

山田:ものにはそれ自体に物語が宿っていますよね。ファクトリエも、その物語を伝えていくことはとても大切にしています。

続けて参加者からは、ECをメインのチャネルとする上での難しさが問われた。多くのファッションブランドは実店舗を通じてブランドの世界観を表現し、ショップスタッフと顧客とのコミュニケーションを通じてファンの獲得に励んでいる。

対して、ファクトリエはEC主体のブランドだ。実店舗で対面の販売を行うブランドに比べ顧客の距離が遠い。「EC主体で企業の思想を伝えていくのは難しいのではないか?」という質問が上がった。

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山田:僕は対面ではなくても十分伝えられると考えています。いまの時代、認知してもらうための手段も多様ですし、それを組み合わせて、データで分析もできる。むしろより解像度高く伝えられる場面も少なくありません。

ECなら0円で店がつくれて、SNS等を活用すればコストを掛けず認知を広げることもできる。これは多くのメーカーにとっても、とてもありがたい時代だと思いますね。

「顧客と洋服の関係を変えたい」。ファクトリエが目指す購買体験の未来

イベントの最後は「サービスを通じて世の中にどんなインパクトを与えたいか?」という質問に答え、ブランドの目指す未来を語り締められた。

山田:僕はファクトリエを通じて「洋服を買う」という購買体験そのものを変えたいと思っているんです。たとえば高品質なデニムに対して2万円の値付けをしたとします。その生産工程を知らない場合、2万円は「高い」と感じられるかもしれません。

しかし、職人たちが積み上げてきた経験や知識、高品質なものを作るためにかけた時間を知れば、適正価格、むしろ安いとすら感じるかもしれない。商品の背景にあるストーリーを伝えることで、消費者が感じる価値は大きく変わる。そうした知的欲求を満たす価値を提供する、消費体験をつくっていきたいですね。

「日本発のブランドを世界に発信する」というコンセプトが意味するのは、単にファクトリエの洋服が世界中に流通するだけではない。世界が日本の技術に価値を見いだし、その背景にあるストーリーを含めた「ブランド」を伝えていくことこそが、彼らが目指す姿だ。

ファクトリエは2017年11月に台湾に海外初のフィッティングルームをオープン。2018年の11月には台湾でのビジネスカンファレンスへの出演も決まったという。

「確固としたブランドを確立できれば、国を超えても伝わっていくと思います」という言葉通り、ファクトリエの思想はストーリーとともに世界へ広がり始めている。

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