7年前、渋谷に『co-ba shibuya』をオープンして以来、co-baは全国にフランチャイズとして展開し、今では全国24拠点(jinnanを含む)まで拡大している。

ツクルバが自社で運営してきたのは『co-ba shibuya』のみだったが、新たに『co-ba jinnan』が加わった。

jinnanを率いるのは、シェアードワークプレイス(SWP)事業部の若手、荻野高弘と吉田民瞳。二人が目指したのは、スタートアップに特化したワークスペースの提供だ。

中でも、起業して間もなく、1~3人程度のメンバーで構成されるチームを対象とした。まだ足元(基礎)が確立していないチームが必要とする環境を、一般的なコワーキングスペースが提供できていないと考えたからだ。

https://co-ba.net/jinnan/posts/001/

そんな二人の熱い思いは、上記の記事で取り上げている。本記事では、荻野らに全力で伴走したtsukuruba studiosの姿に迫る。

「CO-FIGHTING SPACE」というコンセプトに至るまで

jinnanのコンセプトは『CO-FIGHTING SPACE』。ここには『馴れ合い』ではなく、スタートアップが、目標に向けて邁進し、『共闘』できる場を提供したい、という思いが込められている。

もちろんこれは当初から掲げられた言葉ではない。荻野らの抽象的かつ感覚的な言葉(それでも確信があったはずだ)をもとに、スタートアップで働く人たちが求める働き方、それに寄り添う空間、素材や的確な言葉やグラフィックを探っていった。

architectやcreativeは議論をもとにデザインのアウトプット作成、荻野らは経営・運営面での検討と並行し、スタートアップへニーズのヒアリングを行った。CCOである中村も自らが起業した際の経験を持ち寄り、議論の精度を高めていった。

このように多角的なアプローチを経て、たどり着いたのは『CO-FIGHTING SPACE』というコンセプト。それは、コンセプトを編み出すまでのプロセスそのものを体現した言葉でもあった。

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では、CO-FIGHTING SPACEとはどんな空間だろうか。

これまでのco-baを思い浮かべると、ラワン合板を基調とした温かみのあるイメージが浮かぶ。視線が抜けるオープンな空間は、コミュニケーションが生まれやすい、誰にでも開かれた場という印象を与えていた。

実際に、co-ba shibuyaは設立当初から今に至るまで、NPOや学生、起業家など、多様な立場の人が集う場となっている。

しかし、今回のjinnanではそのようなイメージからは敢えて離れることにした。

jinnanは、あくまで『創業間もない不安定な時期を過ごすだけのオフィス』である。長く留まりたくなる心地よい居場所ではなく、瞬間的な熱量を内側に反響させるような空間が求められた。

コンセプトに至る議論では、「基礎の構築」、「完成されていない空間」、「居心地の悪さ」といったキーワードが挙がった。これらのキーワードから導き出したのが『建築現場の仮設』というコンセプトだ。

創業期のスタートアップと、建築が作られる工事初期の状況はどこか似ている。仮囲いの中の、混沌としてまとまりがなく、至る所から工事音が響くような空間。そのノイズは一つひとつが、完成というゴールに一直線に向かう熱量を秘めている。

建築に使われるいくつもの仮設資材、建物の基礎を作り上げている状態を、内装デザインとして表現しようとした。

「共闘」する空間をいかに具現化できるか

あえて“ノイズ”のある素材を用いた空間

jinnanでは、建築資材における仕上げ材は一切使っていない。

すべての建材が、下地材や仮設資材であり、既存の躯体だ。完成した後は、本来現れることのない材料である。それらは仕上げ材にはないノイズのある表情を持っている。

これらの材を敢えて表出させ、この空間で清濁併せのみ、成長に向かって走る創業期のスタートアップの発するエネルギーが増幅するような。そんなイメージを構築しようと試みた。

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急成長する組織に寄り添う個室とフリーアドレス席

jinnanは、2層に分かれたフロア構成である。まず考えたのが、個室の配置とフリーアドレス席の在り方だ。

渋谷界隈のコワーキングスペースは、フリーランスを対象にしたフリーアドレス席や固定席が多く、個室の数はまだ多くない。しかし、jinnanではスタートアップの成長過程に寄り添うため、フリーアドレス席だけでなく、2階には個室を設けている。急成長するスタートアップが個室を必要としたときにも短期的に借りることもできる。

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また、各階に設けたフリーアドレス席では、デスクの形状によって異なる使われ方を想定した。

2階のフリーアドレス席には、作業に集中したい人のために、大テーブルと窓際のカウンターブースの2つの空間を設けている。

入り口から足を踏み入れると、5mにも及ぶ長さのテーブルが置かれている。この大きさなら、他人と適度な距離感を保ちながらも、同じ空間を共有している一体感を得られる。このテーブルを囲み、各々が業務に没頭する光景をイメージした。

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段を上がった窓際には、こもって作業する追い込みブースを設え、試合(サービスリリース)前のワークスペースになるだろう。

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3階では、活発なコミュニケーションを誘発する六角形のデスクを考案している。作業に没頭するスペースを備えた2階とは対照的な空間だ。

テーブルを六角形の形状とした背景には、創業期のスタートアップの多くが3人前後で構成されているという点だけでなく、チームを隔てた交流のきっかけを生みたいという狙いもある。正六角形とはせず、営業やエンジニアなど、職種によって必要な作業スペースが異なることも考慮し、各辺の長さに変化を持たせた。さらに大工が使用する作業台の仕組みを応用し、自由に解体と組み立てができる構造としている。

3階では、ピッチイベントや併設されたキッチンを用いた食のサポートも行われる予定だ。

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jinnanのサインに込めた想い

最後に、jinnanの看板となるサインについても触れておきたい。

jinnanでは、表札をイメージしたプレート型のサインをデザインした。これらは各個室とメインサインとして設置されている。

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個室に掲げるプレートには社名が入り、jinnanを去る際には、取り外して持ち帰れる仕様となっている。jinnanという空間で、他の入居者と切磋琢磨し、成長した証を、その後も手元に残しておいてもらいたいと考えた。

2階に掲げられたメインサインには、jinnanの価値を伝えるタグライン『CO-FIGHTING SPACE』を明記した。取り外し可能な仕様とすることで、イベント時にはjinnanのコンセプトを広く伝えるツールにもなってくれる。

これらを通して、jinnanのアイデンティティを浸透させると同時に、スタートアップとの共闘の歴史を培っていきたい。

co-ba jinnanは、スタートアップと成長していく

様々な用途別の設計基準となる資料をまとめた『設計資料集成』という本がある。

オフィスなら通路幅はこう、机の高さはこう、といった具合に、基準となる情報がまとまった書籍である。これらは設計をこなすことで身に沁みついていくものだ。

しかし、jinnanが対象とするスタートアップは、誰も一般的なオフィスと同じ作業スペースを求めてはいなかった。そうした気づきから、利用者と空間の関係を深め、一般的な知識では対応できない要望にも、可能な限り答えようと試みた。

また、この記事では、株式会社SLDによる食のサポートやco-baコミュニティマネージャーの役割などについては深く触れていない。これには紙幅の関係もあるが、何より私が適任者ではないだろうと思ったからだ。しかし、それらは私たちに大きな気づきを与え、デザインと深く関わり合っている。

こうして空間やデザイン、仕組みが出来上がったが、jinnanとスタートアップの関係はまだ始まったばかりだ。ここから、両者は密接に関わりながら、互いに成長を遂げていくと確信している。読者の皆様もその成長を見守り、何なら『共闘』していただけると幸いだ。