“パブリックプロデューサー”がつくる次代の公共

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右から 山道拓人・建築家/ツバメアーキテクツ代表取締役/江戸東京研究センター客員研究員 中村真広・株式会社ツクルバ代表取締役CCO 千葉元生・建築家/ツバメアーキテクツ代表取締役 西田司・建築家/株式会社オンデザインパートナーズ代表取締役

『PUBLIC PRODUCE「公共的空間」をつくる7つの事例』の冒頭、編著社の一人である西田氏は、多様な人々が共存し、自由に過ごせる“公共的空間”を作っている事例において、「プロデューサー」の役割が欠かせないと指摘している。彼らは場を継続し、新しい人を呼び込む仕掛けを生み出し、建築と社会をつなぐ接点を作り出している。

本書ではそうした役割を担う人を「パブリックプロデューサー」と呼び、彼らの実践した場づくりの手法をインタビューから紐解いた。イベントの冒頭では、司会を務めた山道氏が、本書で採ったリバースエンジニアリング的手法について解説する。

山道:今回書籍をまとめるにあたっては、ただプロデューサー的な役割の人に話を聞くだけでなく、その場所がどのように形作られてきたのか、成り立ちや構造、ターニングポイントを編著者たちで議論しました。それは、個別の事例を、他の場面にも応用できるよう、ナレッジ化していきたかったからです。

こうした「場のリバースエンジニアリング」を行うため、本書ではプロジェクトの仕組みをダイアグラムで表すことにしています。『変化に対して各プレイヤーがどう考え、どう動いたのか』を俯瞰できることは、きっと今パブリックプロデュースに携わっている人にも参考になると思います。

コミュニティボールパークがつくりだした“公益性”

イベント前半では書籍で紹介している7つの事例から4個をピックアップして簡単に紹介。それぞれのリサーチを担当した編著者が解説を付け加えた。

1つ目は、横浜DeNAベイスターズの「コミュニティボールパーク」化構想。横浜公園内に建つ横浜スタジアムを起点に、野球ファン以外にも、性別・年齢問わず、市民の集うコミュニティを構築していく試みだ。

公園ではビアガーデンや移動動物園といったイベントも開催し、スタジアムはキャッチボールをしたい市民のために定期的に開放する。こうした一連の施策により、横浜市は2018年の「住みたい街(駅)、住みたい自治体ランキング」で1位を獲得するなど、魅力的な街として認知を高めている。本書ではこの事例に、新しい公共的空間のヒントとなる、“公益性”を見出した。

山道:企業が公共空間を使って利益を得ようとすると、ほとんどの行政は難色を示すはずです。しかし、横浜スタジアムの賑わいをみれば、一企業の利益追求も、市民の豊かな暮らしへ貢献していることがわかる。同じ価値を平等に与える『公共』ではなく、誰かの利益が他の人の利益にもなる『公益』が成立しているんです。

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西田氏は、この事例において2014年から横浜スタジアムと横浜市の間で調整役を担い、構想を推進してきた。 2017年の「包括連携協定」締結に至るまでの変化を次のように振り返る。

西田:野球ファンだけでなく、地域に場を開き、動員を増やしたいと考えるベイスターズに対し、当初、横浜市は『一企業がなぜ公共空間を商業利用するのか』と少し抵抗があったようです。しかし、球団も横浜市も、街を盛り上げたいという想いは同じでした。

そこで、常に『公益性』を意識してコミュニケーションを行いました。例えば、公園にコーヒーショップを建てる際には、『ショップが便益施設として、公園を訪れる市民に、いかにポジティブな影響を与えるか』を伝える。すると、異なる言語を持つ組織も、公共的空間のために歩み寄っていけるのです。

横断型の組織に欠かせない“バイブル”の共有

「公益」と並ぶ重要な概念として、本書は「バイブル」という言葉を挙げている。これは取り組みにおいて“立ち返るべきコンセプトをまとめた書類群”を表す。

バイブルの重要性を示す事例が、中央線の武蔵境駅から立川駅をつなぐ高架下を利活用する「中央ラインモールプロジェクト」だ。本プロジェクトはJR東日本が主体となり、駅に接続するエリアにはショッピングモールを、駅と駅の間には子育て支援施設やコミュニティガーデン、シェアオフィスを設置し、子どもからビジネスマンまで、沿線に住む人々の集う場をつくりあげている。

インタビューを担当した中村が、本取り組みにおけるバイブルの役割を説明する。

中村:この取り組みは30年以上続いているもので、関わる担当者やデザイナーも何度も変わってきました。それでも、『緑×人×つながる』というプロジェクトの理念をビジュアルに落とし込んだ『デザインコードブック』によって、コンセプトが伝承されているんです。それを見返すことで、どの担当者でも「そもそも自分たちはどのような場を目指しているのか」に立ち返ることができ、ブレることなくプロジェクトを進行できていたのです。

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提供:ユウブックス

さらに中村は「中央ラインモールプロジェクト」における、“横断型”の組織のあり方に注目している。

中村:JRには駅員さんもいれば、駅ビル運営や地域連携、営業や開発、業務推進など、多様な役割を担う人々が、異なる組織に属しています。けれど、『中央ラインモールプロジェクト』では、それらの組織から数人ずつが集まり、小さなひとつのチームを結成してプロジェクトに取り組んでいます。

立場や役割を超え、一つの目標に向かって協働する中で、おのずとメンバー間に『目の前の職務を超えて沿線の街を盛り上げていこう』という仲間意識が生まれているようでした。部署の異なるメンバーが協働しているので、街のなかの様々なプレイヤーを巻き込みやすくなる。組織内のダイバーシティによって「中央ラインモール」はより間口の広い場として発展しているようでした。

組織内に貫かれた思想が支えるブレない場づくり

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運営する組織の多様性は、3つ目の事例、武蔵境駅前に位置する複合施設『武蔵野プレイス』にも共通している。

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提供:ユウブックス

『武蔵野プレイス』は、主に図書館、生涯学習支援、青少年活動支援、市民活動支援という4つの機能を備えた施設だ。4階建ての施設は吹き抜けでつながり、各部屋を仕切る壁は最小限に抑えられている。図書館機能は各階に分散され、1階にはカフェ、地下2階には青少年向けの学習スペースや音楽スタジオも併設。2011年の会館以来、利用者の数は上昇を続け、多くの市民に愛されている。

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提供:ユウブックス

「武蔵野プレイス」の基本計画を策定した委員会は、「図書館」という具体的な施設の種類ではなく、「市民が知識・情報を得る場」や「青少年が自分を表現する場」といったように、「利用者がどのように過ごせる場なのか」について盛んに議論し、コンセプトをまとめていった。

そうした場づくりに必要だったのが、図書館や生涯学習支援、青少年活動支援など役所における異部署間の連携だ。そこで武蔵野市は施設を直接運営するのではなく、一括で指定管理を行う財団を立ち上げることにより、異なる部署が協働できる環境を整えていった。

インタビューを担当した千葉氏は、職員の様子から「横のつながりをつくろう」という強い意思を感じたという。

千葉:当時、武蔵野市の職員で、基礎計画や設計提案に携わった方は、このプロジェクトが「公共施設に対して抱えていた想いを、制度や組織、運営上の壁を乗り越えて、チャレンジできる場だった」と話されていました。

関わっている人たちが横断的な組織づくりに意欲的で、現場の職員にもそうした考えが浸透している。そして、運営に関わる人たちが同じ思想を共有し、それが場づくりにも反映されている。パブリックプロデュースにおいて組織の目線を合わせる重要性を感じさせる非常に良い事例だと感じました。

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多世代が“ごちゃ混ぜ”に存在し、ポジティブに影響し合う

最後に紹介したのは、廃寺を利用したコミュニティスペース群だ。児童発達支援施設や高齢者支援施設、ジムを備える『B’s』、隣接する『三草二木 行善寺』ではレストランや温泉が営業されている。

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提供:ユウブックス

健常者と障害者、世代の壁のない場を訪れた際の経験を西田氏が共有する。

西田:とにかく多様な要素が混ざっている場所でした。お寺の境内で食事をすると、料理は障害を持った方が配膳していました。温泉を利用して歩いていると、保育園で遊んでいる子どもたちと遭遇します。ジムは福祉施設の利用者だけでなく、一般の利用者も多いそうです。

建物のなかでは、多様な人たちが各々の目的に沿って過ごしている。子どもたちの様子を見て、ジムでトレーニングしている人が頑張れたり、障害者の方の唐突な行動によって、みんなが思わず笑顔になったり。ポジティブな影響が起きているのです。

年齢や障害の種類によって施設を分ける方が、スムーズに利用できると思われがちですが、むしろ混ざっていることにより、誰もが快適に過ごせる公共的空間が生まれることもあるのだと気づかされました。

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『B’s』や『三草二木 行善寺』の仕掛け人である雄谷良成氏は、「『福祉施設とはこういうもの』という既成概念に捉われたくなかった」と振り返っている。建築家と設計を進める上では、「ごちゃ混ぜ」な場のイメージを共有するために、何度も対話を重ねていったという。「機能」ではなく「場のイメージ」から議論を始める点は先ほどの『武蔵野プレイス』とも共通している。

事例から浮かび上がるパブリックプロデュースの秘訣

「公益」「バイブル」「ごちゃ混ぜ」など、本書で扱われているテーマを紹介した後は、各編著者が上梓後から本トークイベントまでの間にあったパブリックプロデュースに関する思考の変化を共有した。

中村が挙げたのはパブリックな場における「お金」の可能性だ。

中村:今、私は『KOU』というコミュニティコインの事業を立ち上げています。本来定量で表しづらい感謝の気持ちを伝え合うツールとして、法定通貨でも仮想通貨でもない「なかまのおかね」を使えないか。そんな実験です。

本著でインタビューした取り組みでは、小規模な組織のなかで多様な役割が、葛藤しながらも、力を合わせて一つの場をつくり上げている。こうした新たな公共を担う組織において、コミュニティコインのように感謝の想いを伝えるための「おかね」があれば、より強固なつながりが生まれるのではと思っています。

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千葉氏はパブリックプロデュースにおいて必要なアプローチが、いかに従来の建築と異なるかを示す。

千葉:建築では『こういう人がこう行動するはずだからこういう場が必要だ』という順番で組み立てていきます。しかしパブリックプロデュースには、『そこにいない人をどう呼び込むのかを』考えることが大切になる。あえて利用者や利用方法を定めず、余白を用意するんです。こうした視点は建築家にとっても必要になってくるのだろうと今回の本を通して感じました。

「『そこにいない人をどう呼び込むのか』を考える」という発言に頷きつつ、山道氏は長期的な視点を持つ重要性を語る。

山道:今すぐは来ないかもしれないけれど、10年後に使う人が変わるかもしれない。パブリックプロデュースには、時系列的な変化も想定した設計が必要だと考えています。

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西田氏はパブリックプロデュースにおいては、関わる人たちが「みんなでやるのが楽しい」という感覚を共有することが大切であると感じたという。

西田:僕は「自分たちが社会や、空間を構成する一部だ」と認識することが、公共的空間をつくるための第一歩だと考えています。そう人が感じるには、『一人でもできるけれど、みんなでやるのもいいよね』という意識がないと難しい。

例えばコミュニティボールパークは、「一人でも観られるけれど、みんなで盛り上がって観るのも楽しい」という意識が共有されているから、自然と人が集まり、互いに場を共有しようとする。こうした意識がパブリックプロデュースには不可欠なのではないでしょうか。

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4人の共有した事例からは、組織形態やコンセプト策定、場の設計に至るまで、従来の枠組みに捉われず再定義していくパブリックプロデューサーの重要性が改めて感じられた。

一方、イベント後半で語られた通り、そうしたパブリックプロデュースの価値を可視化する指標や、よりよい公共を議論する共通言語は十分とはいえない。本書が起点となり、建築家やプロデューサーなど、役割を超えて公共的空間について議論する場が増えていくことに期待したい。