井垣達彦
tsukuruba studios 空間デザイナー

1992年生まれ。京都工芸繊維大学を卒業後、インテリア設計事務所にて主にオフィス設計と、インテリアのサイン計画業務に従事。 2017年11月よりツクルバへ参画し、tsukuruba studiosのメンバーとして、主にオフィス領域の設計及びデザインコンサルティング、プロジェクトマネジメントを担当。

「幅広くやりたい」学生が魅せられた“ブランディング”の力

ツクルバのアーキテクトチームで、オフィス領域の設計やデザインコンサルティングを手がける井垣。建築へ関心を持ち始めたきっかけは、ドイツで過ごした小学生時代だった。ヨーロッパの街に点在する歴史的建造物の美しさに魅力を感じていたという。

それ以来、「将来は建築家になる」という目標を胸に抱く。ただ、高校卒業時に進学先として選んだのは、「建築」を専門に学ぶ学部ではなかった。

井垣:大学では、「デザイン経営工学」を掲げる学部で、建築だけでなく、マネジメントやデザイン、エンジニアリングを横断的に学びました。僕自身、元々一つのことに熱中するより、色々なものに興味があり、幅広くやりたいと思うタイプ。建築以外にも興味の幅を広げられる環境の方が僕には合っていました。

好奇心の赴くままに授業を受けるなか、とりわけ井垣の関心を引いたのが「ブランディング」だった。具体例として、日本の伝統工芸品である波佐見焼を中川政七商店がリブランディングした「HASAMI」を挙げる。

井垣:「HASAMI」は、由緒ある波佐見焼の技術に遊び心あるデザインをかけ合わせて、独自の世界観をもつプロダクトを作り上げています。それによって、波佐見焼を知らなかった人たちに、その価値が伝わっていく。実際、僕自身もその一人でした。

優れたブランディングの持つ力に驚かされると同時に、いずれは自分もこうした仕事に関わってみたいと思うようになったんです。

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新卒3年目、“総合的な場のデザイン”に挑める環境を求めて

ブランディングに携われる環境を志し、就職活動では、設計事務所だけでなく、大手広告代理店等の選考も受けた。しかし、最終的に選んだのは、オフィスや商業施設の内装やインテリアを手がける企業だった。

井垣:いずれデザインやブランディングなど、領域を広げていくためにも、まずは「設計」をキャリアの軸に定め、基礎を固めようと考えました。また、新卒で入った会社はグラフィックデザインの部署があり、オフィスを空間だけでないアプローチで表現し、社内の人や訪れた人に伝えるという点は、“ブランディング”であると思ったんです。

入社後は、空間に限らず、実際にグラフィックデザインも担当。オフィスのサイン、壁に描くグラフィックを、クライアントの要望を踏まえてデザインしていく作業は、「とても楽しくやりがいがあった」と振り返る。

設計の基礎を学びながら、ブランディングと関連する仕事もできる環境で、充実した日々を送った。その中、前職の先輩を介して「ツクルバ」を知る。その先輩は、tsukuruba studiosでデザインディレクターを務める立岩宏章だった。

井垣:立岩さんが転職してからも何度か飲みに行き、裁量権の大きさや組織のフラットさを生き生きと語る姿をみていました。スタートアップゆえに楽な環境ではないだろうと思いつつ、得られるチャンスも大きいのかもしれないという印象を持っていました」

ツクルバが企画からブランディング、プロデュース、設計まで、総合的な場のデザインを実践している点にも惹かれた。中でも井垣が興味を持ったのは、ツクルバがプロデュースした『Good Morning Building』だ。『朝』をテーマにしたスタートアップ向けのシェアオフィスで、ツクルバが設計からコンセプトの構築や店舗の選定まで手がけている。

井垣:いずれは幅広く場作りに携われるようになりたいと考えていました。ちょうど新卒の会社に勤めて3年以上が経ち、『そろそろ転職かな』と思い始めた時期。ツクルバで既存より広い領域を視野に入れ、自らのスキルを磨きたいという気持ちが湧いてきたんです。

当時のツクルバが急成長を遂げていたことも、井垣の背中を押した。2017年11月当時、ツクルバは50人から100人規模へと拡大している途中。前職が大手のグループ会社だったこともあり、ツクルバがグッと伸びる瞬間を体感したいと思った。

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新たな環境に飛び込み、出会った2つの“カルチャーショック”

入社してからの数カ月間は、驚きの連続だった。

井垣が真っ先に挙げたのは、クライアントとのコミュニケーションだった。前職では、規模の大きい組織で、スーツに身を包んだクライアントと仕事をする機会がほとんどだったが、ツクルバではスタートアップのオフィス設計を担当する機会も多い。

日頃のやりとりのカジュアルさや、クライアントとのフラットな関係性は、井垣の目に新鮮に映った。

井垣:仕事をする上でも、ただ相手の要望を聞くのではなく、対等な立場で自らの意見を発することが求められます。年齢や経験に関係なく、“プロ”として信頼してくれている分、責任も感じますし、期待以上のアウトプットを出したいと強く感じますね。

社内のコミュニケーションにも「軽いカルチャーショックを覚えた」という。上下関係はほとんどなく、オンでもオフでも“仲間”として接することができる風土があった。

井垣:入社前に、毎年恒例というキャンプに参加したんです。すると、30代の人たちも含め、学生のような親しい関係を築いている。社員同士の距離の近さに驚きました(笑)。でも、いざ仕事を始めてみると、みんなの関係性が近いからこそ、フラットに議論でき、スピーディーに物事が決まっていく。一人ひとりの思考も鋭く、優秀な人材が集っているのだなと感じました。

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“設計者”と“クライアント”の関係を超え、共に創り上げる

文化の違いに日々刺激を受けながら、手応えのある日々を送った井垣。入社して1年足らずだが、すでに忘れられないプロジェクトがいくつかある。

その一つが、人材開発や組織変革に関するコンサルティングを行う「ヒューマンバリュー」のオフィス設計だ。そのプロジェクトでは、設計に入る前に、施主とツクルバのメンバーで「理想のオフィスとは」を考えるワークショップを開催。「ホスピタリティを感じられるオフィス」や「お客さまのためにこのスペースはこうあるべき」など、多様な視点から意見を集め、コンセプトへ落とし込んでいった。

井垣:ツクルバ側がすべてを提案するのではなく、ワークショップを通してクライアントと一緒にコンセプトを練り、1つの世界観を創り上げていく。いわゆる「設計者」と「クライアント」の関係を超え、チームとしてプロジェクトに取り組みました。

事前のコンサルティングを丁寧に行うと、クライアントが抱いているニーズをより的確に拾い上げられるうえ、「何をすべきか、すべきでないか」が明確になる。これにより、設計プロセス全体の効率化も見込めます。優れたアウトプットを目指すのは当然として、それに至るプロセスも磨いていきたいと思っています。

多様な価値観のぶつかり合いから得られた視点

多様な個人が、決まった役割の枠を超え、チームとして共創する。ヒューマンバリューで実践したプロセスは、多様なメンバーの集うtsukuruba studiosのなかで、井垣自身が体験してきたことでもある。

共にアーキテクトとして働く6人のメンバーも、建築設計事務所や大手住宅メーカー、インテリア業界の出身者など、バックグラウンドや価値観が異なる。同じプロジェクトに取り組んでいても、「どこを重視するか」に違いが現れるという。

井垣:例えば仕事の進め方。僕は、与えられた期間内に最高のアウトプットを出したいので、常に納期から逆算してやるべきことを取捨選択します。ですが、メンバーには、納期を先方と調整してでも、クオリティを極限まで高めたい人もいる。

考え方が違うので意見がぶつかることもありますが、足りないところを補完しあえる関係だと思っています。互いに譲れないポイントが異なるからこそ、最終的に良いものができているんだなと。

アーキテクトだけでなく、“デザイン”を考える多職種の人たちと関わるなかで影響を受けることも多い。

井垣:まだ実践には至ってはいないですが、例えば、設計者とグラフィックデザイナーで空間の設計をしたとすると、まったく違う空間になるのではないかと思っています。実空間の設計者はある一定の「型」に縛られていることも多い。空間をやっているだけでは獲得できない、まったく異なる視点を得られる可能性が tsukuruba studios にはあると感じています。

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設計だけでなく、企画やブランディングなど、総合的な場作りに携わりたい。そう語った井垣にとって、異なる専門を持つメンバーとのコミュニケーションは、常に好奇心を掻き立ててくれる。

井垣:tsukuruba studiosには、アーキテクト、デザイナー、エンジニアが隣で作業していて、自分が質問したら、すぐに答えをもらえる環境がある。そこから、新しい世界が覗きみえたり、関心領域が広がったりするのを感じます。まだうまく言語化できていない部分もあるけれど、“何かできそう感”は持っています。

そんな異なる専門を持つメンバーがフラットにコミュニケーションを取れる「場」として、井垣は先日オフィス内に全長5.4メートルのキッチンを設計した。

井垣:CCOの中村から「みんなが集まりたくなるような場所にしてほしい」というオーダーを受け、どのような場にするか、一から考えました。仕事の合間や帰り際に、仲間と立ち寄りたくなる場所にしたくて、大きさにはこだわりました。受付側に向いているのも、入り口から見て、賑やかな雰囲気が伝わってほしい。オフィスを訪れた人が、キッチンからも、ツクルバの空気やカルチャーを感じ取ってくれたら嬉しいですね。

遮るものがなく、広々としたキッチンの佇まいは、まさに井垣の考える“ツクルバ”が表現されているようにも感じられた。

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異なる考えを持つ他者との出会いが新たな発想の源となる。そんなアイディアの創発が起きているtsukuruba studiosは、好奇心あふれる井垣にとって理想的な環境のようだ。

直近の目標は、「企画から設計、クリエイティブまで携わり、1つのアウトプットを生み出すこと」。そう語る彼の目には、いつか生み出したい“場”の姿がいくつも浮かんでいるようにみえた。