土地柄に合わせたデザイン

まずはコワーキングスペースの位置する“土地”に着目した。

ブロックチェーンに特化したコワーキングスペースは世界中に広がっている。日本でも2018年6月、渋谷に「Neutrino」が開設された。

「Neutrino」は、渋谷と代官山の間、住友不動産渋谷インフォスアネックスビル1階に位置する。白と黒を基調とし、土地柄に合ったモダンな空間だ。

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出典:Neutrino公式Facebook

「HashHub」が位置する本郷は、東京大学が近くにあり大学生や研究者が多く暮らすアカデミックな街である。近年では、研究機関からスピンアウトしたベンチャー企業が次々と立ち上がり、新たなビジネスの拠点として注目が集まっている。

また、渋谷のように大規模な再開発が行われていないため、喫茶店や古書店が連なった昔懐かしい街並みと建物のスケール感、そして学問を中心とする雰囲気が上手く融合されている。

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出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/東京大学

設計者として、ブロックチェーンから想起されるモダンでクールな雰囲気は、本郷という土地にはフィットしないと考えた。そこで我々は、「背伸びしないカジュアルな要素」と、「アカデミズム」を取り入れることをプロジェクトの基本方針として位置づけた。

Blockchainをどのように読み解くか

土地と紐づいた要素を整理した後は、いかにブロックチェーンを空間的に表現するか、議論を深めていった。

クラウドファンディング時に公開していたHashHubのイメージからは、「ブロックチェーン」らしさがあまり感じられなかったので、打ち合わせでは「ブロックチェーン」をどのように読み解くかに時間を割いた。

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筆者作成:クラウドファンディング時のイメージパース

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筆者作成:ボノロイ分割を用いた照明デザイン

ボロノイ分割を用いた照明によってブロックチェーンを表現する試みも行ったが、空間が煩雑になってしまった。(写真二枚目)

オープンが迫るなか、一旦提案をリセットして、ブロックチェーンを考え直した。そこでたどり着いたのは、「途切れない」というブロックチェーンの特徴だった。

「途切れない」とは、「割り切れない」とも解釈できる。そこから連想されたのが「素数」だ。素数は、自明な正の約数以外に約数を持たない自然数であり、1でない数として有名だ。

素数のルールを意匠に取り込めば「途切れない」や「割り切れない」といった特徴を表せるのではないかと気づき、そこで連想したのが「フィボナッチ数列」だ。

「フィボナッチ数列」は、0, 1, 1, 2, 3, 5, …と表される。2,3,5の素数の合計値は2+3+5=10という塊とも表せる。これを初項である0を除外して1から5までのパターンを繰り返すと

1, 1, 10, 1, 1, 10, 1, 1, 10, 1, 1, 10, 1, 1, 10, 1, 1, 10, 1, 1, 10, 1, 1, 10, 1, 1, 10, 1, 1, 10,…

1と0で構成された数値の連続が現れてきた。この数列のうち「10」を1つの塊、つまりブロックとして、それ以外の「1」をチェーンと解釈すると、ブロックチェーンを数値の配列によって表現ができることに辿り着いた。

そして、このブロックチェーン数列を照明の配列リズムに落とし込むと、天井を走り抜ける一繋ぎの「ブロックチェーン照明」が構成できた。

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ブロックチェーン数列により構成された照明

”映え”スポットを配置

HashHubでは、エンジニア向けのイベントを多く企画している。そのため、来訪者が写真を撮り、SNSに投稿したくなるよう、大きなロゴの看板や、特徴的な照明の映えるイベントスペースを用意した。

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HashHubの顔であるロゴのサイン看板

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出典:HashHub公式Twitter HashHubイベント時の様子

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出典:HashHubより提供

日々、情報技術は凄まじい速度で進歩している。ブロックチェーンはその最たる例だろう。今回は、「ブロックチェーン」という抽象的かつ、日々進化を遂げる概念を建築に落とし込む特殊解を導いた。この空間が特異点でなく、この場所から日本国内のみならず世界へと繋がるHubになることを願っている。